腰の痛み
腰痛を感じたことのある人は多く、ある調査では国民の7割以上が腰痛を経験したことがあると言われています。
しかし「腰痛」と一言で言ってもどの部分が痛いのか、どんな動作で痛いのか、腰痛以外の下肢の痛みや痺れなどの坐骨神経痛を伴うのかなど症状は人それぞれです。痛みが出てから数日なのか、何ヶ月も経過しているのか、原因、きっかけがあったのかなど経過、発症の仕方にも違いがあります。
腰痛の原因
- 筋肉・筋膜性の痛み:背筋や腹筋、臀部の筋肉に由来する痛みです
- 骨、関節由来の痛み:背骨(腰椎)、椎間板などに由来する痛みです。
- それ以外の原因:内臓疾患や泌尿器科疾患、女性であれば婦人科疾患などに由来する痛みなどもあります。
①筋肉・筋膜性の痛み
よく耳にする“ぎっくり腰”とは腰周囲の筋肉由来の痛みの代表です。
医学用語としては急性腰痛症と言われますが、読んで字の如く、急に腰が痛くなるとう状態を表しています。起床後に洗面所で顔を洗おうと腰を曲げた瞬間に激痛が走った、子供を床から抱き抱えようとしたら腰が痛くなったというようなことがあります。発症後の数日間痛みを伴いますが自然軽快することが多いのが特徴です。
痛みが落ち着いてきたら軽いストレッチや体操などが症状緩和に有効です。
ただし、ぎっくり腰と思っていても、1週間以上経っても痛みが改善しない、臀部や大腿の後ろ、ふくらはぎに痺れや放散痛を伴う場合は実は椎間板ヘルニアだったり背骨の骨折だったりと他の病気が隠れていることもありますのでレントゲンやMRIなどでの診断が必要になります。
②骨、関節由来の痛み
腰の背骨(腰椎)の変形や骨折、背骨と背骨の間にある椎間板と呼ばれるクッションの役割を果たす軟骨組織の障害などが腰痛の原因となることがあります。骨折は急に痛みが出現することもありますが、背骨の変形や椎間板の障害は数ヶ月以上続く腰痛の原因となることもあります。また椎間板や背骨の変形はしばしば背骨の中の神経(馬尾神経)が圧迫されて下肢の痛みや痺れを伴うことがあります。
病名としては脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症といった病名が有名です。これらの疾患はレントゲンのみでは診断が困難であることが多くMRI検査が有用です。
③それ以外の原因
腰痛が主な症状であっても腹痛を伴ったり、胃部不快感や嘔気、食欲低下などを伴ったりする場合は消化器疾患を考える必要もあります。また食後の痛み、脂っこいものを食べた後の痛みなど特徴的な症状の出方をする場合は内臓由来の痛みであることを考えなくてはいけません。その他女性の方であれば月経に伴う腰痛や不正出血に伴う腰痛であれば婦人科疾患を考えますし、血尿を伴う腰痛では尿路結石などの泌尿器科の疾患も念頭におく必要があります。
どのように診察、検査を行うか
問診
腰痛がいつから始まったのか、きっかけ、原因があったのか、どんな動作で痛みが強まるのかといったことを聞かせていただきます。また腰痛以外の坐骨神経痛などの症状があるのか、発熱や倦怠感、消化器症状などその他の症状があるのかなども確認して参ります。
診察
痛みの部位を触診で確認します。また腰の前屈動作、背屈動作に制限があるかなども調べ、下肢への放散痛など神経症状が認められるかを適切に評価します。症状
腰痛のみであるか、その他の部位の症状を伴うかどうかで検査の緊急性が変わってきます。
検査
骨、関節の評価にはレントゲン検査を行います。背骨及び骨盤、大腿部などのレントゲンを撮影し関節の変形や背骨の変形、骨折の有無、その他の正常でない病的な変化がないかを確認します。皮膚、筋肉などの組織の評価には超音波エコー検査が有用です。坐骨神経痛などの神経症状を認める場合にはMRI検査をお勧めいたします。診察、検査の結果で整形外科以外の疾患を疑う場合は必要な診療科への受診をお勧めし紹介状を作成いたします。
実際の診療で多くみられる疾患、病気
腰椎椎間板症
腰椎椎間板ヘルニアを含む、腰椎椎間板の障害です。
筋筋膜性腰痛症
背中の筋肉の問題により腰痛が起こる状態です。
変形性腰椎症
加齢により腰椎に変形が起き、腰痛が引き起こされる疾患です。
腰部脊柱管狭窄症
脊柱管(背骨の中の神経の通り道)が腰椎の変形や椎間板のヘルニアにより狭くなり神経が圧迫される病気。高齢の方に多く、長時間の歩行が困難となり、下肢の筋力低下などが起こる状態です。
腰椎分離症
若年者にも起こる背骨の疲労骨折が原因となり腰痛を起こります。
腰椎すべり症
椎間板の加齢性変化により背骨が前後にずれる疾患です。
椎体炎
細菌感染が原因となり背骨(椎体)に炎症が起こる疾患です。
椎間板炎
細菌感染が原因となり椎間板に炎症が起こる疾患です。
腫瘍
主に悪性腫瘍の背骨への転移により腰痛が起こることがあります。
圧迫骨折
比較的頻度の高い骨折の一種で原因の多くが骨粗鬆症です。
内臓(後腹膜臓器)の病気
膵臓、腎臓や尿管・大動脈解離や女性の場合は子宮、卵巣などからくる痛みなどがあります。
どのような治療が必要となりますか?
しっかりと診断をつけて、投薬やコルセットの着用、ブロック注射、運動療法の指導などを組み合わせて治療を行います。症状が強い場合、手術以外の治療での効果が乏しい場合には手術をお勧めすることもあります。