肩の痛み、肩の疾患
上肢帯―肩甲帯の構成
肩関節と一言で言っても多くの骨、関節構造が関与しています。
上肢帯―肩甲帯は肩甲骨、鎖骨、上腕骨の近位部、胸骨によって構成されています。
その中で肩関節は広い定義では以下の5つの構造によって構成されています。
- 肩甲上腕関節:肩甲骨と上腕骨の近位部が形成する関節、いわゆる肩関節です
- 肩鎖関節:肩甲骨と鎖骨が形成する関節
- 肩岬下関節:肩甲骨の肩岬と呼ばれる部分と上腕骨が形成する関節
- 胸鎖関節:胸の真ん中に存在する胸骨と鎖骨が形成する関節
- 肩甲胸郭関節:肩甲骨の後ろの部分と肋骨による胸郭が形成する関節
皆さんが一般的に肩関節とイメージするのはこの中で上記の1ですが肩の痛みとなる関節の多くは1と2と3です。
肩関節の構造
いわゆる肩関節(肩甲上腕関節)は人体の中で最もよく動く(可動域が広い)関節です。
この構造は多くの筋肉、腱、靭帯によって安定性を高め、関節包という構造がその動きを支えています。しかし動きやすい関節である反面、骨の関節面が小さく、他の関節に比べ不安定な関節であるとも言えます。そのため外傷、スポーツによる脱臼が起こりやすい関節です。関節運動を作っている筋肉、腱、関節包が年齢による変化や怪我で損傷すると痛みを起こすことにつながります。
以下に代表的な肩関節疾患を説明します。
肩腱板損傷・断裂
多くは中高年以降に起こりやすい疾患です。肩関節を包む4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)を肩腱板と呼びます。
この筋肉はインナーマッスルと呼ばれ肩関節運動を最も内側で制御し安定させる重要な構造です。この腱板が断裂する状態を腱板損傷・断裂と呼びます。肩を動かす時の痛みや、肩の脱力を起こすようになります。原因としては
- 加齢:60歳を過ぎると徐々に生じてくる。
- 外傷:転倒や衝突により腕の強い捻転強制や打撲で生じる。
- スポーツ障害:テニスや野球、バレーボールやウエイトトレーニングなど肩を酷使することで生じる。
が、挙げられます。
小さい断裂であれば疼痛を引き起こし、時間経過とともに大きな断裂になると筋力低下につながります。夜間に痛みを生じることが比較的多く、それが強ければ睡眠障害となり心身の健康を害すこともあります。
特徴的な症状
肩の運動時痛
肩関節の可動痛(動かすと痛い)、引っかかり(インピンジメント:動作の途中で引っかかる)が特徴的な症状です。症状が進行すれば肩の運動で脱力を自覚することがあります。
夜間痛
仰向けの姿勢や、痛みのある側の肩を下にして寝ると痛みが強くなり、睡眠を妨げられることがあります。
診断
レントゲン写真で関節の変形の有無や、骨の位置に異常がないか調べます。
超音波、M R I
肩腱板の断裂の有無、程度を調べることができます。
治療
薬物治療
消炎鎮痛剤の内服、外用薬
注射治療
肩関節の中に局所麻酔薬、炎症を抑えるステロイド剤、ヒアルロン酸などを注入します。
肩関節運動療法
疼痛に応じて関節可動域の低下を防ぐために肩関節体操を行います。
手術療法
肩腱板の損傷が大きい場合や、痛みが強く持続する場合には手術が必要な場合があります。
肩関節鏡下腱板修復術
関節に関節鏡と呼ばれる細いカメラを入れて関節の中の断裂している腱板を確認し骨に再度縫い付ける手術です。2,3箇所の小さい傷で治療ができ術後の入院期間も短く、社会復帰が早いことが特徴です。ただし手術後の装具での固定期間が数週間必要であることやリハビリテーションの継続も数ヶ月必要になります。
近年この腱板損傷は一度断裂が生じるとその病状や断裂の大きさが時間経過とともに悪化していくことがわかっています。断裂が重症になると手術治療による回復がしにくくなってきます。そのため高齢になる前に手術を行うという考え方も増えてきています。
一方で、手術治療を速やかに推奨できない方には、運動療法や薬物療法で症状の緩和を図ります。
人工関節(リバース型人工肩関節置換術)
長期間腱板断裂が放置されていると断裂した腱板は縮こまり修復することは困難になります。その後肩関節の骨の変形が進むと慢性的な疼痛や筋力低下へとつながります。
このような状態になると関節鏡手術は困難であり以前は治療が不可能でしたが、近年リバース型人工関節と呼ばれる手術手技の開発により疼痛の改善、可動域の改善が得られるようになっています。
肩関節周囲炎(五十肩)
肩関節痛の代表的疾患として肩関節周囲炎、五十肩があります。
50歳代を中心とした中高年以降に発生するもので明らかな誘因なく肩関節痛と関節が硬く動きにくくなる疾患です。原因としては肩関節の加齢に伴う変化で肩関節を包む関節包という構造が炎症を起こすことと考えられています。
症状
肩の疼痛と可動域制限が主たる症状です。
動作時痛、安静時痛があり、夜間の痛みが特に初期に認められます。痛みのため衣服の着脱困難や髪結動作や帯結動作(腰に手を回す動作)が困難になります。痛みに関しては腱板損傷との鑑別が困難なことがありますが、関節可動域制限が強く出ることが特徴的です。
肩関節周囲炎には3つの病期があり急性期、慢性期、回復期と呼ばれます。個人差がありますがそれぞれの病気が3ヶ月程度継続します。全体として1年程度の経過で改善することが多い病態です。
急性期
疼痛が強い時期で運動時痛、夜間痛を認めます。可動域制限は疼痛により誘発されます。
慢性期
痛みは改善傾向となりますが関節の拘縮が主症状となり、あらゆる方向への肩の動きが制限されます。
回復期
疼痛と関節可動域制限が徐々に改善していきます。
診断
診察
症状の経過、程度を問診し、触診で可動域制限の有無、可動時痛の有無を確認します。
肩関節前面に痛みを訴える人が多く、痛みの部位がどこにあるかを診察します。
肩鎖
レントゲン写真で肩関節の変形や関節の位置関係に異常がないかを確認します。
超音波検査やMRIで腱板断裂がないかを確認します。
治療
基本的に手術をせずに保存的治療を行うことが第一選択となります。
急性期:患部の安静、保温、軽度の可動域訓練に加え内服薬、関節注射による除痛慢性期、回復期:可動域訓練を中心に運動量を増やしていく治療が必要です。